書評-湊かなえ「告白」-嘘と本当の境目をよむという事

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)これを読んで、あらためて、告白って何なんだろうと思った。




本書は「告白」の表題のとおり、前編に渡り登場人物たちの告白によって物語が進んでいく全5章立て。彼らよって語られるそれぞれの告白は、新たな告白を呼ぶ。推理小説を思わせるその驚きとハラハラとイビツさは本書を読んでのお楽しみ。本書の出来に隠れているが、文庫版に寄せられた後書き、中島哲也の「映画化に寄せて」が抜群に良い。これがあってこそ、「告白」という作品が完成したと言っても過言ではないくらい、これ、必読。





―子供たちとの話し合いの中では、何か気づかれた点はありましたか?―


子供たちって、結構言葉を信用してるんだなあと思いまいたね。「別に、この本に出てくる人間が、みんな本当のことを言っているとは限らないだろう」って言うと、

「えー!なんでですか?」って驚くんですよ。「だって、君達も嘘をつくだろう」って返したら「そりゃあ、つきますけど」って。
たくさん語る、というのは実のところある事実を自分向けに再構築するという事、身も蓋もない言い方をすると「嘘」をつくという事だ。ひとりの人が語れば語るほどに、聞き手は細心の注意を払わなければいけない。耳を澄ましながら、嘘を想像するというのは想像以上にタフな作業だからだ。ましてや表題が「告白」とあっては、中学生でなくとも騙されてしまうのは、頷ける。
嘘をつかれる、というのはムカつく事だが、嘘を見破る、というのはそれに勝る快感であるのは、名探偵でなくても感じられる事だと思う。だから本書を最大に楽しむために、ちょっと嘘に気をつけて読んでほしい。饒舌すぎるところはないか、それは何かやましい事を隠すためだからでないだろうか。大きな出来事なのにさらっと語りすぎていないか、そこにあったおおきな心の動きをあえて語らない理由はなぜなのだろうか。一方的な心情の吐露は告白では無い。嘘という毒がふんだんに混じっているのだ。


考えながら、想像しながら読むといのは、最高に面白い「読」書のひとつであり、だからこそ、本書は傑作に他ならない。書店で本を買う時は絶対に解説は読まないようにしている僕だが、これは自信をもって「解説を読んでから本書を買え!」と断言できる。本書を読む上で指針となってくれるし、極端な話、解説を読むだけで、ある一面に関しては十分元が取れてしまう(笑)




真鶴 (文春文庫)

話はちょっと変わるのだけれども、川上弘美著「真鶴」という無茶ムチャ僕好みの作品ある。これも解説が抜群に優れた稀有な作品。解説として割り当てられた僅かなページ数に、文章論・作家の比較・小説の目指すべき位置を描く非常に骨太な内容で、個人的にはこの解説のために540円を払ってもお釣りが来るほどだった。解説者の三輪太郎(当時は名前すら知ない)彼の解説の追っかけになってしまい、彼の週一の新聞連載のため定期購読をするようになった(追記:2010年7月8日にて終了)。
良い解説に恵まれた小説というのは幸せなのはもちろんだがしかし、良い小説は良い解説が付いてくるのもまた事実じゃないだろうか。